日本では国民皆保険制度が導入され、日本国民であれば社会保険あるいは国民健康保険に加入する義務があります。
ですが国民健康保険料は社会保険に比べて、自分で負担する額が多いため、できれば加入したくないと考えますよね。
「国民健康保険に加入しなくてもデメリットはない」と考えがちですが、実は国民健康保険に未加入だと、最悪過料や差し押さえになる可能性があるのです。
今回は国民健康保険未加入で差し押さえになるリスクについて、徹底的に解説していきます。
目次
前提!社会保険未加入者は国民健康保険に加入する必要あり
前提として社会保険未加入者は、国民健康保険に加入する必要があります。
社会保険とは、企業に勤めている人が加入できる保険で、労働保険や協会けんぽなどの健康保険が含まれます。
企業に正社員、あるいは条件を満たしている非正規雇用の従業員が加入できます。
しかし企業に勤めていない人や、個人事業主として働いている方は、地方自治体の管理している国民健康保険に加入しなければなりません。
健康保険の加入状況は自治体では把握できませんので、自分で市役所に行って手続きする必要があります。
国民皆保険制度のもとに、すべての国民に健康保険への加入が義務付けられているので、一人だけ加入しなくてもよいことにはならないのです。
社会保険脱退後に申請をしないと実質未加入状態に
企業を辞めて社会保険脱退後には、14日以内に国民健康保険に加入手続きをしなければなりません。
「どこで働いているかなんて国が把握しているんじゃないの?」と疑問に思うでしょうが、社会保険から国民健康保険の切り替えは自分で申請しなければ、変更できません。
自治体の国民健康保険加入窓口で加入申請手続きを行いましょう。
以下の書類を持参すれば対応してもらえますので、手元にそろえておきましょう。
- 健康保険脱退証明書
- 公的な身分証明書(免許証やマイナンバーカード)
- マイナンバーカードあるいは通知書
国民健康保険の未加入がバレると過料や差し押さえの可能性がある
国民健康保険の未加入がバレると、罰則として地方自治体から過料や差し押さえを受けることがあることをご存じでしょうか。
国民健康保険法で地方自治体に権利が認められているので、過料の請求や差し押さえの権限が認められています。
以下で詳細を解説していきます。
国民健康保険法で保険者は10万円の過料を請求できる
国民健康保険の保険者である地方自治体は、国民健康保険法に基づいて未加入者に対して10万円の過料を請求できます。
健康保険の加入は国民の義務ですから、原則全国民が加入するものです。
地方自治体には加入すべき人が何らかの理由で国民健康保険に未加入だった場合、条例に過料の請求についての条文を記載できるのです。
実際に東京都の台東区国民健康保険条例第8章27条~29条には、以下の通り記載されています。
第8章 罰則
(過料)
第27条 区長は、法第9条第1項若しくは第9項の規定による届出をせず、若しくは虚偽の届出をし、又は同条第3項若しくは第4項の規定により被保険者証の返還を求められてこれに応じない者に対し、10万円以下の過料を科する。
第28条 区長は、世帯主又は世帯主であつた者が正当の理由なしに、法第113条の規定により文書その他の物件の提出若しくは提示を命ぜられてこれに従わず、又は同条の規定による当該職員の質問に対して答弁せず、若しくは虚偽の答弁をしたときは、10万円以下の過料を科する。
第29条 区長は、偽りその他不正の行為により保険料、一部負担金その他この条例の規定による徴収金の徴収を免れた者に対し、その徴収を免れた金額の5倍に相当する金額以下の過料を科する。
また条文にある通り、地方自治体は不正な理由がないのにも関わらず、不正に国民健康保険に加入していない場合、支払っていない保険料の5倍以下の過料を科せられることもあります。
未納分の保険料は2年までさかのぼって請求
社会保険を脱退してから14日以内に国民健康保険に加入せず、期間を過ぎてから申請をすると、加入時から最大で2年前までの保険料が請求されます。
国民健康保険の保険料の時効は2年と設定されているためです。
また地方自治体によっては、国民健康保険税の名前で徴収しているところもあります。
国民健康保険税として保険料を徴収されている場合は、地方税法に基づいて最大5年前までさかのぼって請求されます。
地区によって国民健康保険料か国民健康保険税かは変わりますので、自治体の公式サイトで確認してみてください。
どちらも前年度所得に基づいて、保険料が決まりますので、前年度所得が高いと年間で支払う保険料が高額になることもあります。
滞納している場合には差し押さえを受ける
仮に国民健康保険に加入申請がされている、あるいは未加入状態が判明していて、自宅に国民健康保険の請求書が届いている場合もあります。
請求を受けているのにもかかわらず、「保険を使っていないから未加入でいい」と自己判断をして、保険料を支払っていないと自治体から差し押さえ手続きを取られる可能性があります。
すぐに差し押さえられるわけではなく、請求書が無視された後に督促状が来て、なお督促状も無視しているときに所得の調査が行われ差し押さえが実行されます。
実際に東京都の福祉保健局の公式HPでは、以下の通り滞納処分を課せられます。
1 督促や催告
納期限までに保険料(税)の支払いがない場合は、区市町村による督促や催告があります。
2 給付の制限
納期限から1年6ヶ月を経過しても滞納をしていると、保険給付が差し止められたり、給付の全部又は一部が滞納している保険料に充当される場合があります。
3 滞納処分
長期間滞納すると、法律に基づいて預貯金、給与、生命保険(契約)など、財産の差押えによる滞納処分を行います。
※ 保険証はどうなるか
一定期間滞納すると、お手元にある被保険者証が、有効期間の短い「短期被保険者証」に切り替わり、さらに滞納が続くと、「被保険者資格証明書」に切り替わります。被保険者資格証明書が交付されますと、医療機関でいったん全額(10割)をご負担いただくことになります。
後日、お住まいの区市町村に申請して、保険診療分の自己負担分を除いた額が払い戻されます。この払い戻された額を未納保険料(税)に充当されます。(引用:東京都福祉保健局公式HP)
金銭に変換できるものもすべて差し押さえ対象になりますので、解約返戻金のある生命保険に加入している場合には、生命保険の契約自体を差し押さえられることもあります。
納付期限が過ぎて1か月後以降は延滞金利率が高くなる
自宅に請求書が届いてから1か月後以降は、保険料に加えて延滞利率が追加されます。
滞納期間に応じて利率が加算されていきますので、早めに支払っておかないと通常よりも高い保険料を支払うことになりますので、注意が必要です。
国民健康保険が未加入で起こるその他のデメリット
国民健康保険に未加入・あるいは保険料を支払っていないことで起こるデメリットは、罰則だけではありません。
以下のデメリットもありますので、必ず加入手続きを進めておきましょう。
医療費の窓口負担が10割になる
国民健康保険に未加入だと、医療費の窓口負担が10割となり全額自己負担になります。
本来健康保険に加入していれば、国が7割は負担してくれますので、健康保険適用内であれば数千円で治療が済みます。
「1回や2回通院するだけなら自分で払える」と思う方もいますよね。
しかし予期せぬ大けがや手術が必要になったとき、全額自己負担になってしまうと数十万円単位で治療費が発生します。
高額療養費制度が利用できない
国民健康保険では高額療養費制度が利用できます。
窓口負担が3割になるとしても、定期的に通院を行っていると月々の医療費がかさんでしまいます。
入院時に国民健康保険に申請すれば、収入に応じて高額療養費制度により、医療費の返金が受けられます。
しかし国民健康保険に未加入だと、高額療養費制度すらも利用できませんので、医療費が家計を圧迫しても何の保障もないのです。
国民健康保険の保険料が減免になる条件
国民皆保険制度がありますので、国民健康保険には加入が必須ですが、条件を満たしていれば保険料が減免されることもあります。
東京都福祉保健局によれば、以下の軽減措置があると明記されています。
国民健康保険の保険料(税)には、次のような軽減の制度があります。
・ 所得が一定の基準以下の方に対する軽減制度
・ 75歳到達により被用者保険から後期高齢者医療制度に移行した方の被扶養者(65歳以上75歳未満)であった方が、国民健康保険に加入する場合の軽減制度
・ 非自発的失業者に対する軽減制度(失業時点で65歳未満)
・ 同一の世帯に所属する者が後期高齢者医療制度へ移行することで、国民健康保険単身世帯となる場合の軽減制度
・ 軽減を受けている世帯について、後期高齢者医療制度へ移行することで、世帯内の国民健康保険被保険者の数が減少しても、従前と同様の軽減を受けられる制度(引用:東京都福祉保健局公式HP)
ただし適用条件などは自治体によって異なるため、保険料が高く支払いが厳しい場合は、各役所の国保徴収係や保険年金業務担当に問い合わせましょう。
離職した場合も国民健康保険の減免措置が受けられるものの、会社からのリストラなど自分の意思の絡まない退職でなければ、適用されません。
コロナによる収入減で保険料減免が受けられる
新型コロナウイルスの流行の影響で、世帯収入が減った家庭には、国民健康保険料の減免申請が認められています。
自営業で飲食店を営んでいる家庭などは、申請をすれば保険料が減免される可能性がありますので、試してみてください。
例えば東京都大田区では、以下の世帯を減免の対象としています。
1 新型コロナウイルス感染症により、主たる生計維持者が死亡し又は重篤な傷病を負った世帯
2 新型コロナウイルス感染症の影響により、主たる生計維持者の令和2年の事業収入、不動産収入、山林収入又は給与収入(以下「事業収入等」という。)が減少した、次の(1)から(3)までの全てに該当する世帯 雑収入は対象外
(1) 世帯の主たる生計維持者の令和2年の事業収入等のいずれかの減少額(保険金、損害賠償等により補填されるべき金額を控除した額)が令和元年の当該事業収入等の額の10分の3以上であること。
(2) 世帯の主たる生計維持者の令和元年の合計所得金額が1,000万円以下であること。
収入に応じて、2割から最大で全額免除になるケースもありますので、自治体の減免措置制度を確認してみてください。
国民健康保険未加入状態を早く解消して不利益を避けよう
いかがでしたか?
いくら国民健康保険の保険料が高くても、日本の国民である以上、加入は義務付けられています。
加入が遅れるほど延滞金が発生しますし、過料だけではなく差し押さえを受けることもあります。
国民健康保険の未加入状態の方は、早めに自治体窓口で相談して、不利益を避けましょう。